東京地方裁判所 昭和55年(ワ)7946号 判決 1982年6月08日
原告
株式会社三ツ星建設
右代表者
鎌田隆太郎
右訴訟代理人
服部弘志
右訴訟復代理人
須藤修
補助参加人
中村利幸
右訴訟代理人
斉藤義房
被告
日産火災海上保険株式会社
右代表者
白石道義
右訴訟代理人
米津稜威雄
同
田井純
同
増田修
同
小澤彰
同
長嶋憲一
同
麥田浩一郎
同
若山正彦
右米津稜威訴訟復代理人
佐貫葉子
主文
一 被告は、原告に対し、金二〇五〇万円及びこれに対する昭和五七年一月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 保険契約
原告は、被告との間で昭和五一年三月二五日自家用小型貨物自動車(練馬四四も九〇九九号、以下、本件車両という。)につき、保険期間を昭和五一年三月二八日から昭和五二年三月二八日午後四時まで、対人賠償額を一事故無制限金三〇〇〇万円とする自動車保険契約を締結した(以下、本件保険契約という。)。
2 事故の発生
訴外鎌田隆太郎(以下、訴外鎌田という。)は、昭和五一年九月一六日原告所有の本件車両を運転して首都高速道路三号線を走行中、東京都港区六本木四丁目一番地先路上で急ブレーキをかけたため本件車両を横転させ、そのため同乗していた参加人が受傷した(以下本件事故という。)。
3 原告は参加人に対し、本件事故について次のとおり金三二九〇万四〇五五円の法律上の損害賠償責任を負担した。
(一) 責任原因
訴外鎌田は、原告の代表取締役であり、その職務を遂行中に本件事故を発生させたものであるから、原告は参加人に対し民法第四四条に基づく損害賠償責任がある。
(二) 権利侵害
参加人は、本件事故により腰椎部と頸椎部に重傷を負い、昭和五一年九月一七日から同年一〇月二五日までの三九日間東京都北区上十条所在の原外科病院に入院し、同月二六日から同年一二月三日までの間同病院に通院し、同年一一月二五日から昭和五四年一一月三〇日までの間東京都北区東十条所在の北病院に通院し、同日症状固定の診断を受けたが、頸髄不全損傷、全身に知覚鈍麻、反射こう進の後遺障害が残つた。右後遺障害は労働者災害補償保険法(以下、労災保険法という)施行規則別表第一障害等級表の第七級三号に該当する。
(三) 損害
(1) 針きゆう、マッサージ代 金四九万七〇〇〇円
(2) 通院交通費 金一〇万六二六〇円
(3) 入院付添看護婦費 金九万七五〇〇円
(4) 入院雑費 金二万三四〇〇円
(5) 休業損害 金三二五万六〇七一円
参加人は、本件事故当時大工の職にあつたところ、本件事故により昭和五一年九月一七日から昭和五四年一一月三〇日までの間休業を余儀なくされた。参加人は、本件事故がなければ、昭和五一年一〇月一四日から昭和五二年三月三一日までは一日金八〇〇〇円、昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までは一日金九〇〇〇円、昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までは一日金一万円、昭和五四年四月一日から同年一一月三〇日までは一日金一万二〇〇〇円の収入が、また昭和五二年及び昭和五三年にはボーナスが各二〇万円得られたはずであるところ、一月当たり二五日は稼働したはずであるから、休業損害の合計は金九六〇万円となる。右額から、右期間中労働者災害補償保険から給付された休業補償給付合計金六三四万三九二九円を控除すると、参加人の休業損害債権は金三二五万六〇七一円となる(なお、昭和五一年九月一七日から同年一〇月一三日までの休業損害は自動車損害賠償責任保険から填補済みである。)。
(6) 逸失利益 金二七一九万三八二四円
参加人は、症状固定当時四四歳であつたところ、前記のとおりの後遺障害のため、六七歳までの二三年間に得べかりし収入の五六パーセントを失つた。参加人は、症状固定当時一年当たり金三六〇万円の収入を得ていたところ、本件事故がなければ、今後二三年間右収入と同程度の収人を得られるはずであるから、右金額の五六パーセントから年五分の割合による中間利息をライプニッツ式計算法により控除すると、次の計算式のとおり、症状固定時の現在価額は金二七一九万三八二四円となる。
3,600,000×0.56×13.489=27,193,824
(7) 慰藉料 金八〇〇万円
参加人は、本件事故により傷害を受けて昭和五四年一一月三〇日まで治療を余儀なくされたうえ、前記のとおりの後遺障害が残り、多大の精神的苦痛を受けた。これを慰藉するには、傷害分金二〇〇万円、後遺障害分金六〇〇万円の合計金八〇〇万円が相当である。
(8) 損害の填補 金六二七万円
参加人は、自動車損害賠償責任保険から後遺障害分として金六二七万円の支払を受けた。
(9) 請求権の合計
右(1)ないし(7)の合計額から、(8)の損害の填補額を控除すると、参加人が原告に対して有する損害賠償債権は、金三二九〇万四〇五五円となる。
4 原告は、参加人に対し、本件事故についての損害賠償として金五〇万円を支払い、さらに昭和五七年一月二二日東京地方裁判所において参加人との間で、本件事故による損害賠償として既払額のほか金二〇〇〇万円の支払義務があり、右金員を昭和五七年二月末日限り金一〇〇万円、同年三月から昭和八八年一〇月までの間毎月末日限り金五万円ずつ分割して支払う旨の裁判上の和解契約を締結した。
5 そこで、原告は被告に対し、保険金二〇五〇万円及びこれに対する右和解成立の日の翌日である昭和五七年一月二三日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実のうち、訴外鎌田が原告の代表取締役であることは認める。
4 同4の事実のうち、原告が参加人に対し金五〇万円を支払つたことは認める。
三 抗弁
1 本件保険契約には昭和五一年一月一日改定の自家用自動車普通保険約款が適用されるところ、右約款第八条四号には被保険者の業務に従事中の使用人の身体が害された場合は、それによつて被保険者が被る損害を填補しない旨の規定(以下、本件免責条項という。)がある。
2 参加人は原告の従業員であり、本件事故は、訴外鎌田と参加人が神奈川県中郡大磯町の工事現場から建築材料を本件車両に積んで持ち帰り、下小屋で作業するため移動中に発生したものである。したがつて、参加人は本件事故当時被保険者である原告の業務に従事中の使用人に当たるから、被告は本件免責条項に基づき、原告が被つた損害の填補義務を負わない。
3 仮に、参加人が退勤途中であつたとしても、本件免責条項の「業務に従事中」に当たるものというべきである。
(一) 労災保険法は、「業務災害」と「通勤災害」の二種類の災害に対する保険給付を定めており、後者は昭和四八年の法改正により加えられたものであるが、右改正前から通勤途上の災害のうち一定のものが業務上の災害として認められており、その一つとして、事業上専用交通機関を企業が提供している場合における通勤途上の災害があげられている。したがつて、通勤途上の災害であつても、労災保険法上業務災害と認定されているものは、本件免責条項にいう被保険者の業務に従事中の事故に当たるというべきである。
(二) 本件事故の際は、参加人は、使用者である原告の所有、使用、管理にかかる本件車両に同乗し、これを利用していたのであるから、仮に、自宅に帰る途中であつたとしても、いまだ使用者の指揮監督を離脱しておらず、同乗中に原告の代表者である訴外鎌田から業務命令を受けてこれを遂行することも十分考えられるから、業務に従事中であつたというべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は認める。
2 抗弁2の事実は否認する。
本件事故は参加人が大磯町の工事現場の作業を終え、自宅へ帰る途中生じたものでいわゆる通勤途上の事故であり、右通勤がたまたま原告所有の本件車両に同乗する形をとつたにすぎないから、参加人が当時業務に従事中であつたわけではない。
3 抗弁3の主張は争う。
(一) 労災保険法は、業務上の事由により被災した労働者の保護を目的とし、自動車保険は、被保険自動車の所有、使用又は管理に起因して他人の生命又は身体を害することにより、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによつて損害を填補するものであつて、両者は制度の目的を異にするから、労災保険法において業務上とされる場合と本件免責条項において業務に従事中とされる場合とが同一の範囲であると解さなければならない理由はない。
(二) 本件事故の際、参加人は、原告の車両に同乗していたが、自己の意思でいつでも降車できる状況にあり、また、その時点では原告の業務から完全に解放されていたから、使用者である原告の指揮監督から離脱していたものである。したがつて、参加人が当時原告の業務に従事中であつたものとはいえない。
第三 証拠<省略>
理由
一請求の原因1の本件保険契約の締結及び同2の本件事故の発生の各事実は、当事者間に争いがない。
二そこで、原告の参加人に対する損害賠償責任について判断する。
1 責任原因
訴外鎌田が原告の代表取締役であることは当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、本件事故現場は首都高速道路三号線上り線の谷町インターチェンジ付近で、渋谷方面からの道路が霞が関方面と羽田方面に分岐している場所であること、訴外鎌田は、神奈川県中郡大磯町の現場から建築資材を積んで原告の会社へ帰る途中であつたこと、同人は本件車両を運転して上り線の右側車線を走行していたが、左方向の霞が関方面へ向かうため右インターチェンジ手前で左側車線に車線変更しようとして左にハンドルを切つたところ、左側車線を進行して来ていたバスに気が付き、あわてて急ブレーキを踏んだところ、本件車両が右に横転したこと、が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
以上によれば、訴外鎌田には本件事故発生につき左方向不注視の過失があつたことを認めるのが相当である。そして、訴外鎌田は原告の代表者であり、その職務を行うにつき本件事故を発生させたものであるから、原告は民法第四四条に基づき参加人に生じた後記損害を賠償する責任がある。
2 権利侵害
<証拠>によれば、次の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
(一) 参加人は本件事故により頭部、顔面部、胸部及び上腹部打撲傷並びに頸椎捻挫の傷害を受け、東京都北区上十条所在の原外科病院に昭和五一年九月一七日から同年一〇月二五日までの三九日間入院し、同月二六日から同年一二月五日までの間三一回にわたり通院して治療を受け、東京北区東十条所在の北病院に昭和五一年一一月二五日から昭和五四年一一月三〇日までの間四八〇回にわたり通院し、あわせて同病院附属診療所に昭和五三年二月一日から昭和五五年七月三一日までの間五六六回にわたり通院して治療を受けた。
(二) 参加人の症状は昭和五四年一一月三〇日固定し、後遺障害として、頸髄不全損傷により頭痛、項部痛、肩こり、めまい、耳鳴、吐き気、左半身の知覚異常、右上肢、左上下肢の運動不自由等があり、右障害は、自動車損害賠償保障法施行令第二条別表の後遺障害等級表の第七級に相当する。
3 損害
(一) 針きゆう、マッサージ代
<証拠>によれば、参加人は、本件事故発生後から昭和五四年までの間に、江戸川マッサージ治療院でマッサージを、かまえ漢法院で針きゆうを、田中治療院で指圧を、南埼玉ラドンセンター及びラドンセンターで温泉治療を、それぞれ受けたことが認められるが、これらが本件事故による傷害の治療のため必要であり、かつ、相当なものであつたことを認めるに足りる証拠はないから、右各治療費の支出が、本件事故と相当因果関係があるということはできない。
(二) 通院交通費
<証拠>によれば、参加人は、前記(一)の通院先(ただし、江戸川マッサージ治療院を除く。)及び高木鍼灸院、呉喆根漢法医、上村マッサージ治療院、に通院するについて交通費を要したことが認められるが、前記(一)の各通院先における治療が本件事故による傷害の治療のため必要かつ相当なものであつたことを認めるに足りる証拠がないことは前判示のとおりであり、その余の各通院先における治療についても同様であるから、右通院交通費を本件事故による損害と認めることはできない。
(三) 入院付添看護費
<証拠>によれば、参加人は原外科病院における入院中付添看護を必要とする状態にはなかつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、入院期間中の付添看護費を本件事故による損害と認めることはできない。
(四) 入院雑費
弁論の全趣旨によれば、参加人は前記三九日間の入院中雑費として一日当たり金六〇〇円を要したものと認められるから、入院雑費の合計は金二万三四〇〇円となる。
(五) 休業損害
<証拠>によれば、参加人は、原告に大工として勤務していたところ、本件事故により昭和五一年九月一七日から症状の固定した昭和五四年一一月三〇日までの間休業を余儀なくされたこと、参加人は昭和五一年六月から八月までの間に原告から一月当たり金二〇万八〇〇〇円の給与を支給されており(ただし、欠勤により減額されるいわゆる日給月給の形であつた。)、また、年間金二〇万円の賞与の支給を受けていたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
以上によれば、参加人は、昭和五一年一〇月一三日から昭和五四年一一月三〇日までの間、給与として少なくとも三七・五か月分金七八〇万円、賞与として三年分金六〇万円の合計金八四〇万円の収入を得られるはずであつたところ、前記のとおり休業を余儀なくされたことによつてこれを得ることができず、同額の損害を受けたものと認められる。一方、参加人が右期間中労災保険から休業補償として合計金六三四万三九二九円の給付を受けたことは原告の自認するところである。そうすると、参加人が原告に請求し得る休業損害債権は、金二〇五万六〇七一円となる。
(六) 逸失利益
前記認定事実と、<証拠>によれば、参加人は、昭和一〇年一月一一日生れで症状固定当時四四歳の男子であり、本件事故がなければ六七歳までの二三年間少くとも本件事故前の年収である金二六九万六〇〇〇円と同程度の収入を得られたはずであるところ、本件事故による前記後遺障害の程度に照らし、右収入の五六パーセントを失うに至つたと認めるのが相当である。そこで、これを基礎とし、年五分の割合による中間利息をライプニッツ式計算法により控除すると、次の計算式のとおり、その現在価額は金二〇三六万四三九七円(一円未満切捨て)となる。
2,696,000×0.56×13.4885=
20,364,397.76
(七) 慰藉料
参加人は、本件事故により前記傷害を受け、かつ、前記のとおりの後遺障害が残り、多大の精神的苦痛を受けたことが認められる。本件事故の態様、右傷害の程度、入、通院期間、後遺障害の程度を総合すると、その慰藉料としては、金七二〇万円が相当である。
(八) 損害の填補
参加人が自動車損害賠償責任保険から後遺障害分として金六二七万円の支払を受けたことは、原告の自認するところである。
(九) 合計
右(四)ないし(七)の合計額から(八)の損害の填補額を控除すると、参加人が原告に対して有する損害賠償債権額は金二三三七万三八六八円となる。
三原告が参加人に対し右損害賠償債権の内金五〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。
また、参加人と原告との間で、昭和五七年一月二二日当裁判所において、原告は、参加人に対し、本件事故による損害賠償として、既払額のほか、金二〇〇〇万円の支払義務があることを認め、右金員を、昭和五七年二月末日限り金一〇〇万円、昭和五七年三月から昭和八八年一〇月までの間毎月末日限り金五万円ずつ分割して参加人方に持参又は送付して支払う旨裁判上の和解が成立したことは、当裁判所に顕著な事実である。
四被告は、参加人は原告の使用人であり、本件事故は被保険者である原告の業務に従事中に生じたものであるから、被告は原告が被つた損害の填補義務がない旨主張するので、判断する。
1 本件保険契約には昭和五一年一月一日改定の自家用自動車保険普通保険約款が適用されること、右約款中には、被保険者の業務に従事中の使用人の身体が害された場合は、それによつて被保険者が被る損害を填補しない旨の本件免責条項があることは当事者間に争いがない。
2 <証拠>によれば、参加人は、本件事故当日午後五時に神奈川県中郡大磯町の工事現場で当日の作業を終え、本件車両に乗車して肩書住所地の自宅へ帰る途中、午後六時一五分ころ本件事故にあつたこと、原告の会社は肩書住所地にあり、訴外鎌田の住所も同じであること、参加人の自宅は、大磯町の現場から原告の会社への経路の途中にあるため、訴外鎌田は参加人が大磯町の現場へ通勤するについて好意的に本件車両に参加人を同乗させていたこと、参加人は大磯町の工事現場へ昭和五一年六月一八日から本件事故当日までの間四一日通つていること、大磯町の現場へは原告の従業員が参加人を含めて六名行つていたが、うち五名は現場に泊り込んでおり、参加人だけが自宅から通勤していたこと、作業時間は午前八時から午後五時ころまでであり、大磯町の現場においても午後五時ころには作業を終えており、参加人は残業をしたことはなかつたこと、訴外鎌田は、本件事故当日大磯町の現場から原告の会社へ向かう際に、本件車両に建築資材を積んでいたが、原告の会社へ到着後の作業予定はなく、訴外鎌田は参加人に対し何らの業務上の指示をしておらず、参加人は、他に用事があればいつでも本件車両から降りることができる状況にあつたことが認められる。
成立に争いのない<証拠>には、参加人が本件事故当時大磯町の工事現場から建築材料を積んで持つて帰り下小屋で仕事をするつもりであつた旨の記載、原本の存在及び成立に争いのない<証拠>には、参加人が原告の会社へ戻る途中であつた旨の記載があるが、分離前原告中村利幸及び同被告鎌田隆太郎各本人尋問の結果によれば、原告は建築資材の組立てなどをするための下小屋を持つておらず、材木店の作業場で右の作業をしていたこと、本件事故は前記のとおり午後六時一五分ころ発生したものであるが、その時刻からでは材木店の閉店時刻との関係でその作業場を利用して右作業をすることは不可能であり、かつ、そのような作業の予定はなかつたこと、参加人は、自宅付近で降りるつもりで、原告の会社へ戻る予定はなかつたことが認められるから、右記載はいずれも信用し難く、他に前記認定を左右する証拠はない。
以上の事実によれば、参加人は、本件事故当時当日の業務を既に終了し、退勤途上にあつたというべきであるから、使用者である原告の業務に従事中の使用人に当たるということはできない。
3 被告は、退勤途中であつても使用者の車両に乗車している場合は労災保険法上も業務災害とされており、いまだ使用者の指揮監督を離脱しておらず、原告の代表者である訴外鎌田から業務命令を受けてこれを遂行することも十分考えられるから、業務に従事中というべきである旨主張する。
ところで、労災保険法上使用者の提供する専用交通機関を利用しての通勤途上における災害が業務上の事由によるものと認められることがあるのは、右のような形態での通勤においては、労働者は、右の専用交通機関の利用を開始した時点から、又は、その利用を終了した時点まで、使用者の指揮監督下に入つているものとみるべき場合があることによるものと考えられる。
本件において、前記認定事実によれば、参加人は、本件事故当時、当日の作業を終えて帰宅の途中であり、その後作業の予定はなく、本件車両から降車したいときは、いつでも降車できる状況にあつたのであるから、既に使用者の指揮監督を離脱していたものとみるべきであり、たまたま原告所有の本件車両に、原告の代表者と共に乗車していたことだけから、業務に従事中であると認めることはできない。なお、<証拠>によれば、労災保険法上本件事故を業務災害として保険給付がされていることが認められるが、これは、判断の基礎となる事実認定が異なつたためと推察されるから、労災保険法上業務災害と認定されていることによつて前記認定を動かすことは相当ではない。
4 以上によれば、被告の抗弁は理由がないから失当である。
五以上の次第であるから、被告は原告に対し、前記三の損害賠償責任額合計金二〇五〇万円について保険金金二〇五〇万円及びこれに対する裁判上の和解成立の日の翌日である昭和五七年一月二三日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。<以下、省略>
(北川弘治 芝田俊文 富田善範)